【印刷の基礎知識】印刷に使うインク「プロセスカラー」と「特色」について解説
はじめに
現在、カラーの印刷物を印刷するときにはC・M・Y・Kの4色のインクを使って印刷を行うことがほとんどです。「CMYK」という言葉はパソコンのプリンターインクなどでも同様に使われていますので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
このCMYKとは別に、印刷用のインクには「特色」とよばれるインクがあります。印刷物の仕様によってはCMYKではなく、この特色のインクを使って印刷を行うことも結構あります。
この特色という言葉は、流石に一般の方には馴染みのない言葉かと思います。今回は特色とはどういう色なのか、どういう用途で使われるのか、などを解説していきたいと思います。
通常のCMYK(インク)は『プロセスカラー』という
それではまず、通常よく行われるカラー印刷の色について説明しておきましょう。通常のカラー印刷の場合にはC(シアン)・M(マゼンタ)・Y(イエロー)・K(ブラック)の4つの色のインクを使って、様々な色を表現しています。このCMYKの色のことを「プロセスカラー」と言います。
実際に印刷するときには1色ずつを4回印刷し、それが重なり合うことで色が出来上がります。このプロセスカラーは4色で数多くの色が表現できるのが大きな特長なのですが、反面、印刷時の温度・湿度、紙の状態など様々な要因により「印刷の色味が安定しない」というデメリットもあります。使用するデータも印刷機械も同じなのに、1回目に印刷した時と2回目に印刷した時とでは微妙に色が違う…などということもよく起こります。
『特色(インク)』ってなんのこと?
次に、特色について説明していきます。特色とは呼んで字の如くですが「特殊な色」です。どのような色が特色になるかというと、ゴールドやシルバー、蛍光色など、CMYKでは再現が不可能な色などが代表的な特色と言えるでしょう。
CMYK=プロセスカラーは、4色をそれぞれ印刷して重ねることで色を表現しますが、これに対して特色は、印刷前にその色のインクを調合します。つまり出したい色を作ってから印刷するため、プロセスカラーと比較すると色の再現度が高く、色味も安定しています。
特にパステルカラーなどの中間色は、プロセスカラーで表現すると色がくすみがちになることが多く、あまり得意な色とは言えませんが、特色でパステルカラーを印刷すると、綺麗ではっきりした色味で仕上げることができます。
特色にも色々な種類がある
特色は世界中で様々な色が設定されています。主にインクを製造しているメーカーが色を設定しており、設定された色にはそれぞれ番号が割り当てられています。どんな色があるのかはメーカーが用意している「色見本帳」で確認することができます。
この色見本帳があると、デザイナーとクライアントで色を決めた後、印刷工程に進める際にその色の番号を伝えることで、色味の共有ができるということになります。
特色インクで有名なのは『DIC』と『PANTONE』です。次いで『TOYO』などがありますが、今回は2トップのDICとPANTONEについて、簡潔にご紹介しておきましょう。
DIC(ディック、ディーアイシー)
DICとは「DIC(ディーアイシー)グラフィックス株式会社」が製造している特色インキのことを指します。日本国内で一番ポピュラーな特色と言えます。特色印刷に対応できる印刷会社の中でPANTONEやTOYOには非対応の印刷会社は結構あると思いますが、DICが対応できない会社はほぼない、と思って良いでしょう。
もともとDICグラフィックスは「大日本インキ化学工業株式会社」という社名だったのですが、DIC(ディーアイシー)グラフィックスに社名変更したため、本当は特色インキも「ディーアイシー」の方が正式な呼び方なのですが、業界的には以前から「ディック」という呼び方が通っており、今もそう呼ばれることが多いです。
DICは有料で「DICカラーガイド」という特色で印刷された色見本帳が販売されており、特色で色を指定する際に「DICの○○○番」という風に指定します。ただし、このDICカラーガイドですが改定が行われており「第XX版」という版によって色の内容が異なってきますので、注意が必要です。ですので、DICの色を指定するときは正確には『DICのXX版の○○○番』と指定すれば間違いありません。
PANTONE(パントン)
「PANTONE」とはアメリカの「PANTONE(パントン)社」が製造している特色インクのことを差ます。DICが特色における「日本の標準」とすると、PANTONEは特色の「世界の標準」のような立ち位置になります。世界中で、印刷物だけでなくファッションや工業製品などの色見本として幅広い分野で使われています。一昔前(ガラケー主流の時代)にはSOFTBANKの携帯のカラーバリエーションにPANTONEが採用されたモデルが発売され、少~し話題になった記憶があります。
PANTONEにも色見本帳があり、色を指定するときは「PANTONEの○○○C」や「PANTONEの○○○○U」などと指定します。「C」や「U」は印刷をするマテリアルを意味しています。PANTONEは非常に色の数が多く、また、インクを使う素材別の色見本帳(プラスチックや布など)まで存在するため、色番号がDICより複雑です。
さて、特色もいくつかのメーカーがあることはご理解いただけたと思います。では、特色のメーカーによる違いはどこにあるのでしょうか?
特色インクのメーカーが変われば当然「色味」は全く異なる
DICとPANTONEなどのメーカーによる違いですが、ズバリ「色・色味」が全く違います。例えば「緑色」だけでもそれぞれのメーカーで相当数の色数があります。さらに「明るくて爽やかな緑色」のように細かいニュアンスまで含んで、色見本帳で選んでもDICで選ぶ「明るくて爽やかな緑色」とPANTONEで選ぶ「明るくて爽やかな緑色」は全然違う緑色になります。
前述の通り、特色の世界標準はPANTONEなのですが、日本では国民性がそうさせるのかどうかですが、DICが標準扱いです。もちろん日本の企業が日本人の好みに合うような色を開発している、という部分も大きいと思います。対してPANTONEは色の開発を日本で行っているわけではありませんので「それに近い色」になるような感じでしょうか。個人的にはPANTONEの色は良くも悪くも「ヴィヴィッド」なイメージがあります。(あくまで個人的にです。)
特色はどのような用途で使われているか
1:ロゴマークやロゴタイプなどの色の指定
デザイン会社などにロゴマークやロゴタイプの作成を依頼し、ロゴが完成するとそのロゴの使用に関する「ルール」を設定します。ガイドラインの内容は多岐に渡りますが、その中に「ロゴの色」は必ずと言っていいほど設定されます。
ロゴの色は「RGBで表示する場合」「CMYKで表示する場合」など、一般的なカラーモードで表示する際の色指定はもちろんですが、単色で表示する必要がある時などを想定して、墨1色と一緒に特色の色を設定するケースが多いです。
2:商品パッケージや紙袋など資材の印刷
特色による印刷がよく行われるのは商品のパッケージや紙袋などの資材です。特に何かの1色で
印刷する場合によく特色印刷が選ばれます。これには理由があり、単色の発色であればCMYKより特色のほうが綺麗であることと、印刷にあたって「製版の数が少なくなるから」です。
CMYKの場合には印刷用の版を各色分、つまり4版作る必要がありますが、特色の場合は「使う色の数」だけ作ります。単色の場合は1版で良いということです。
その分コストを抑えることができるので、特色印刷を選択することがよくあるという訳です。
3:のぼりや幕などの旗類
のぼり旗や横断幕などの旗に属するカテゴリーの商品でも、特色印刷が採用されることがあります。もともと旗類は染料で染めていたのですが、シルクスクリーンによる印刷に主流が移行し、今ではフルカラーで印刷されることも多くなりました。
ですので実際には特色印刷で旗類を作ることは以前より少なくはなっていますが、特色印刷の旗類も根強い人気があります。
4:フルカラー印刷+特色の組み合わせ
結構特色が活用されるパターンとして、フルカラー印刷と特色印刷の合わせ技で印刷を行うことがあります。例えば冊子物の表紙などで、全体をフルカラー印刷した上で、タイトルやロゴの部分をゴールドやシルバーにしたい、などの場合です。フルカラー印刷ではメタリックの色は再現ができないので、特色インクで印刷を行うことになります。
別の方法として「箔押し」もあります。箔押しはメタリックの極薄の箔を熱で紙に接着します。メタリックの特色より、さらに金属的な質感になり、高級感が出るので人気がありますが、コストがかかる面と、あまり細かい模様などには向かない点がデメリットです。
今回のまとめ
他にもまだ特色で印刷をするケースはありますし、私たちが何気なく目にしている印刷物や商品の外装などでも、実は特色で印刷されているものも結構あります。
現在はプロセスカラーによるフルカラー印刷がやはり主流ですが、特色による鮮やかで印象的な印刷物もまた魅力的なものです。